岩国行波の神舞を見る


七年に一度奉納される行波(ゆかば)の神舞を是非この目で見たいものだと
以前から思っていましたが、今年その念願がやっと叶いました。
我が大波野神舞と同じ流れをくむ、その神舞を比較しながら、じっくり楽しんできました。

 平成19年4月8日(日)午前9時から
 始まっていたのだが、私たちが到着したのは
 すでに11時を回った頃だった。
 
 なにしろ初めてなので場所もよく知らなかった
 のだけど、錦川をさかのぼって行くと
 おお!あれだ、あれだ!
 一番最初に目に入ってきたのは
 大きな松の丸太で囲まれた神殿だった!
 すごく立派な松の柱が8本も!

 そして行波神舞のクライマックスで使われる
 一本の柱が脇に高くそびえている。
 日本紀(にほんぎ)をやっていた。

 翁の姿をした神が天地創生からの謂れを述べた
 建国の舞で、大波野神舞にも同じものがあるが
 こちらは長丁場、延々と50分も続く。
 ま、それが普通の神楽なり、神舞なんだよね。
 ウチの神舞は20分足らずで、あっという間に
 終わってしまうってのが珍しいのね。

 同じ舞が長々と続くのは
 素人目には退屈かも知れないけど、
 演じている者にとっては大変な運動量ですよ。
 楽人にとっても大変なことです。
 桜の咲いている土手の上の方から
 眺めてみました。
 折りしも満開の桜の季節で
 時折、ふわ〜っと桜の花びらがいっせいに
 舞って飛んでいく。
 切り紙も風になびいて、なんとも言えない
 風情のある春の大祭です。
 
 当地の鎮守社、荒玉社。
 神舞が行なわれている場所のすぐ近くの
 山の中腹に立っている、可愛い社。
 社地内には大きな枝垂れ桜の木があったけど
 すでに花は散った後で残念。

 社のすぐ下方に錦川清流線の「行波」駅があって
 たった一両のバスみたいな電車が通っていく。
 素晴らしいロケーション!
 山に囲まれた川沿いの集落だからこそ
 地の利を生かして
 大きな木材を使った神殿や松登りの木、
 「松登り」のような独特の舞が生み出されたのかな?
 
 お昼になって、お腹がすいてきたので
 屋台の店を物色。
 お祭りには付き物の、鯛焼きや回転焼き、焼きとうもろこし
 焼きイカ、プラス当地の物産品。
 岩国寿司やお弁当、本日限定の行波の神舞酒もあった。
 
 
 演目「真榊対応内外」(まさかきたいおうないぎ)
 柴鬼神の舞とも言われている。
  
 杖の形状といい、舞の振りといい
 ウチの神舞とよく似ている。
 大きな違いは行波の装束は基本的に黒
 に対して、ウチは白。
 
 雨が降り出してきた。
 お天気は曇りと言っていたけれど
 山の天気は変わりやすいからね。
 ちょっと寒くなってきたから
 ジャンパー持ってきておいて良かった。
 見物客も傘や河童を取り出して
 皆用意がいい。
 舞が盛り上がってくると、天井の天蓋飾りが
 びゅんびゅん揺れ出した。
 綱を引っ張って揺れるようにしてある
 面白い仕掛け。
 あんまり揺らすものだから、白い切り紙が
 ほら、バラバラ取れてしまってる。
 ウチの「四天王」に似て、四人の舞子が登場。
 それぞれ背中に赤、青、白、黒、の旗を付けている。
 ウチのは全部赤で、四人の神の名前が書かれているが
 こちらにそれは無い。
 しかし、色にも意味があり、「東西南北」四方を
 四神が祓う、という舞。
 同じ振りの繰り返しなのだが
 見ていて飽きない。
 四人の舞がきれいにシンクロして美しいから。
 さすがに国指定だけあって
 気合が違う!と思った。
 ひょうきん者の神様登場。
 ウチでは「大名持神」とはっきり言っているが
 こちらでは神種と呼ばれているらしい。

 四神との掛け合いの口状もきちんとある。
 面の顔がなんともユーモラスな変な顔なので
 動作も全部面白く見えてしまう。

 一物の使われ方も男性四神に向かって
 なされるので、へえ〜そういうのもアリかぁ〜
 と感心した。
 子孫繁栄の願いを聞き届ける神様としては
 いろいろ工夫がいりますね。
 四神が持ち物を太刀に変えて舞う。
 またまたカッコイイ。
 薙刀登場。
 こちらでは「霊剣」と言う。
 とにかく薙刀をびゅんびゅん、ぐるぐる回す
 ので力と気合が入ります。
 そして二刀を持った、敷太刀。
 悪霊祓いをする。

 舞の振りはウチと違うけど
 最後にでんぐり返ったりするのは同じ。
 ついに「八関」が始まった。
 神殿から高く立てられた松までの間に
 八つの囲いみたいなのが作られているのが関で
 この間を鬼神と人との8組のペアが
 行きつ戻りつして舞う。
 
 白装束を着た一人の男性が登場した。
 そして、高さ約25メートルもある組み立てられた
 松の木を縄梯子に一歩一歩足をかけながら
 登っていく。
 
 途中、両足がそろえて休憩できるような足場が
 作ってあるけど、とにかく上まで登りきるまでは
 気が抜けないよな。
 
 登る人は前の晩、神社に篭り、この日の朝
 錦川の水で身を清められ
 この舞に臨んでいると聞いた。

 アクロバット的見ものではない。
 神事。
 やっと上まで登りきった。
 赤、白、黄の円を破って、松の枝を折り
 下の方へ投げ捨て始めた。
 この木の松葉には御利益があると言い伝えられ
 下方で眺めている人々の中で
 枝をキャッチできた人はラッキー。
 そして、いよいよ松降り。
 結局、命綱も付けずに
 片足片足交互に大きく振りながら
 神殿まで張ってある長い綱を逆さになって
 舞いながら降っていく。
 途中こんなポーズをしながら降りていくので
 思ったより、降りきるまで時間がかかる。
 だいぶ下まで降りてきた。
 ここまで降りれば、と見ている方が一安心する。
 最後まで息を呑むような緊張した
 「松登り」の舞であった。
 すごい!の一言に尽きる。
 そして、高い松の木の下に控えていた
 舞子たちが神殿への道を舞いながら退場していく。
 
 行波神舞の舞子勢ぞろい、といったところでしょうか。
 わずか50軒にも満たない、小さな集落から
 これほどの人数の舞子が確保できて
 こんな大きな規模の神楽ができるなんて
 信じられないくらいスゴイことなのです。
 行波神舞保存会の会長さんが
 この日のために、一年前から地区の人々が
 一丸となって準備してきたと言われていましたが
 本当に行波地区の方々の神舞に寄せる熱い思い、
 意気込みをひしひしと感じました。
 
 その思いが、今日の祭りを実現させ
 また、次回に引継がれていくのですね。
 最後は鬼神の行列。
 鬼神たちが舞いながら退場していくと
 「八関」は終了。
 まだまだ神舞は夜の11時半まで続きますが
 私は都合により、見るのはここまで。

 感動でした。
 予想していた以上に素晴らしい神楽でした。
 明るい春の山里に、自然と神と人間とが1体となった姿を
 かいま見たような気がしました。

 また7年後に見られることを楽しみにしています。